相続放棄をすべき期間の起算点

相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,家庭裁判所で手続をすることとなっています。

民法
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし,この期間は,利害関係人又は検察官の請求によって,家庭裁判所において伸長することができる。

2 相続人は,相続の承認又は放棄をする前に,相続財産の調査をすることができる。

第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第1項の期間は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

第917条 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは,第915条第1項の期間は,その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

この「3か月以内」というのは,いつから起算して3か月なのか,問題になることがあります。

自分の父親が亡くなった場合に,自己のために相続の開始があったことを知った時というのは,通常は,臨終に立ち会ったときや,遅くとも葬儀を執り行ったときのことを指すものでしょう。

海外や遠隔地に住んでおり,訃報が届かなかった場合や,前妻との間の子のように,普段から音信がなく,まったく知らなかったような場合には,これが知り得たときのことを指します。

この点,令和元年8月9日に,最高裁判所から相続放棄の起算点に関する重要な判断が示されました。

事件の概要は次のとおりです。

会社の連帯保証人Aが平成24年6月30日に死亡しました。

その後,Aの家族は全員,平成24年9月に相続放棄をしました。これにより,Aの法定相続人がBとなります。

Bは,相続放棄をする前に,平成24年10月19日に死亡しました。Bの法定相続人は,Cです。

これにより,Aの保証債務がCに承継されたこととなります。

銀行から債権譲渡を受けた債権者は,強制執行を申立て,これがCに送達されたのが,平成27年11月11日です。

Cは,平成28年2月5日に相続放棄の申述をしました。

Cの相続放棄が有効になされたものか,争われております。相続放棄の期間の起算点が,「平成24年10月19日」あるいは「平成27年11月11日」により,3か月以内であるかどうかの判断が分かれるためです。

民法916条を素直に読めば,前者であるようにも考えることができます。

最高裁判所の判断は,次のとおりです。

民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。

単にBが亡くなった日を客観的な基準とするのではなく,Bが亡くなったことにより,Bが承継していた亡Aの相続人としての地位をCが承継した事実を知った時としました。

Bが生前に,Aの相続人となっていたことを認識していたか否かについては,916条の適用には影響がありません。

つまり,今回の場合では,Aの債務について強制執行がされ,これが送達された平成27年11月11日を起算点と考えたものです。そこから3か月以内である,平成28年2月5日に相続放棄の申述をしたことは,有効なものであると判断されました。

相続放棄の起算点は,悩ましいものがあります。

配偶者や子供の立場では,これが問題となるケースは想定しにくいです。

しかし,これらが全員相続放棄をしますと,兄弟姉妹が法定相続人となります。兄弟姉妹の中に,先に亡くなっているものがあれば,甥・姪も法定相続人となります。

彼らが相続開始を知った時を客観的に判定することは,いささか難しいものです。

相続放棄をする場面では,自分がその手続をしたことで,次にバトンが回る人が誰になるのか,というところまで念頭に置いて,大きな借金があるような場合には,一抜けせずに,親族が全員で相続放棄をすることも考えなければならないでしょう。

どのような場合でも,死後3か月以内に,相続放棄をすることの判断をするためには,生前に財産や負債を整理し,わかるようにしておくことが大切です。

また,債権者各位におかれましては,3か月の起算点を早く開始させるためにも,通知や督促など,債権回収のための行動を急ぐことが望ましいでしょう。

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