不動産登記

まだ本人確認で消耗してるの?

土地の売主になりすまして、代金を持ち逃げしてしまう。このような古典的な詐欺が、現代の技術と相まって、対応が困難になることが考えられます。

不動産詐欺で63億円の損失

積水ハウスが地面師に騙され、巨額の損失を出したのは昨年のことですが、犯行グループの一部が逮捕されたことで、その手口が明らかになっていくようです。

警視庁捜査二課は、地面師グループが複数の本人確認書類を不正に入手し、積水側を信用させたとみて調べている。

捜査関係者や民事訴訟の資料によると、地面師グループは羽毛田容疑者の顔写真を張り付けた地主名義の偽造パスポートを所持。羽毛田容疑者とみられる女は昨年三月、東京都品川区の戸籍住民課で偽造パスポートを示して名義人に成り済まし「印鑑登録証明書を紛失した」と改印を申請。偽の印鑑登録証明書を取得した。さらに同年四月、都内の公証役場で公証人に偽の印鑑登録証明書と偽造パスポートを示し、申請者が地主本人だと認証する公正証書を不正に取得していた。(中略)

公証人は検事や裁判官の経験者らが務め、申請者が土地権利証をなくした場合などに、公証人から本人確認を受けることで土地取引を進めることができる。

(東京新聞 平成30年10月17日夕刊記事より)

わらしべ長者のように、偽造パスポートを利用して、公証人の認証を受けたようです。良い子は真似しないでください。

  • 偽造パスポートを入手する
  • 偽造パスポートを持って役場に行く
  • 役場で実印の改印届をして、印鑑証明書を交付してもらう
  • 偽造パスポート、実印、印鑑証明書を持って公証役場に行く
  • 公証役場で、登記の委任状を認証をしてもらう

権利証がなくても、土地の名義変更はできます

新聞記事にもあるとおり、土地の名義変更をするのに、権利証をなくしたときは、別の手段で所有者本人であることを確認することで、取引や登記手続を進めることができます。本件では、これを悪用した事例となります。

不動産登記法

(事前通知等)
第23条 登記官は、申請人が前条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。

(中略)
4 第1項の規定は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用しない。

一 当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた場合であって、登記官が当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき。

二 当該申請に係る申請情報(委任による代理人によって申請する場合にあっては、その権限を証する情報)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人(公証人法(明治41年法律第53号)第8条の規定により公証人の職務を行う法務事務官を含む。)から当該申請人が第1項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。

不動産登記法

また、上記のうち、登記義務者であることを確認するために必要な認証について、具体的な内容を示した先例があります。

申請書等について次に掲げる公証人の認証文が付されている場合には、法第23条第4項第2号の本人確認をするために必要な認証としてその内容を相当と認めるものとする。

公証人法第36条第4号に掲げる事項を記載する場合
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」

公証人法第36条第6号に掲げる事項を記載する場合
(ア)印鑑及び印鑑証明書により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」

(イ)運転免許証により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
(以下、省略)

平成17年2月25日法務省民二第457号

偽造された書類をもとに私署証書の認証を行ってしまった事例は今回がはじめてではありません。過去に印鑑証明書が偽造されていた事例について,公証人の責任は、次のように判断されています。

公証人は、私署証書の認証に当たって嘱託人から提出された印鑑登録証明書の真否につき、一見して不自然な点がないかを確認すれば足り、印鑑登録証明書の見本との照合や検査器具による検証により確認すべき職務上の法的義務を負わない。

(東京地判平成28年5月25日訟月第44巻6号2162頁)

現代の名工たちに挑む、司法書士の勘と経験

今回の事件では、パスポート以外はすべて真正な書類です。

書類だけを見て、他人のなりすましであることを見抜くのはほとんど不可能であります。

不動産の代金決済の場では、司法書士が当事者の本人確認・意思確認をして、その場で名義変更に必要な書類がそろっているかを確認したのち、代金の授受と登記申請へと進みます。

当日に初めて会い、面識のない当事者をその場にある書類だけで本人確認することにはおよそ無理があります。形式的に書類を眺めるだけではなく、生年月日等の本人であれば必ず知っている情報を質問して、慎重に確認することが通常ではありますが、精巧に偽造されたパスポートが出されたときに、これを判別する専門的な機器は持ち合わせておりません。

詐欺を仕掛ける側の手口が巧妙化し、人間の勘と経験に頼った方法では、太刀打ち出来ないほどに高度化されております。その場でできる本人確認では、対応が困難であると考えます。

このようなときは、私はいったん全部壊して考えるのが好きです。

人間の力による本人確認など無理なので、やめてしまいましょう。司法書士は、神様ではありません。

もっと合理的に考えましょう。

不動産の代金決済でも、エスクローサービスを活用できないものでしょうか。買主がいったん売買代金を第三者に預託し、登記が完了したことを確認したのち、売主に送金されるようにすればいいのです。そうすることで,万が一書類が偽造されていて、名義が変えられなかったとしても、代金を持ち逃げされることはありません。

ネットショッピングやオークションでは、当たり前のように利用されている仕組みであり、難しいことはありません。使える技術はどんどん利用し、安全で快適な取引を進めようではありませんか。

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司法書士 野田啓紀
司法書士 野田啓紀
名古屋で相続、認知症対策専門の司法書士事務所を経営しています。人生100年時代を豊かに過ごせるように、老いの不安を解消し、想いに寄り添うコンサルティングに強みがあります。 遺言書、民事信託、成年後見制度などを組み合わせた相続、認知症対策のご提案をいたします。 当事務所では、相続登記や預貯金の解約のような死後の事務手続だけではなく、生前の相続、認知症、事業承継への対応に、適切な助言をいたしております。