不動産を相続する人が誰なのかをはっきりさせるため、被相続人が亡くなった際に相続登記の申請を義務付ける。
手続きを簡素化する代わりに、一定期間のうちに登記しなければ罰則を設けることを検討する。
日本経済新聞
日経新聞に、相続の登記を義務化することを法務省が検討を進めていると報じられました。また、遺産分割協議に、期間の制限を設けることも含まれています。
これは、今に始まった話ではありませんが、いよいよ進んでいくことになるのでしょうか。
現在の不動産登記法では、登記は義務ではありません。
登記をしなければ、第三者に自分の所有権を主張できないだけであって、自分が持ち続けているだけでは、登記をしないことによるデメリットはありません。
ましてや、必要ではない農地や山林を相続してしまった場合には、もともと相続する気のなかった土地をやむを得ず受けてしまったのですから、費用をかけてまで登記の手続をする動機付けがありません。
しかしながら、長年にわたって相続登記がされなかったこと等により、所有者が不明の土地がわが国の20パーセントにも及ぶとの推計もあります。
このことは、道路の拡幅や鉄道の敷設などの公共事業や大規模災害の復旧・復興事業の遅れの原因となっていることはたびたび報じられており、社会問題となっています。
このような状況において、法務省が、罰則付きで相続登記を義務化に向けた検討を進めているものです。
この罰則がどの程度実効性のあるものになるかは、果たして疑問であります。
まず、土地の所有者が死亡したことは、法務局ではわかりません。
死亡届が出される市町村役場と各地の法務局は、情報共有をしていません。情報共有をしたところで、死亡した人と土地の所有者との同一性の確認はどのようにされるのでしょうか。登記簿には、所有者の最新の住所と氏名が記載されているばかりではなく、これは、戸籍、住民票、固定資産税台帳、登記簿を逐一確認して名寄せをしなければ、わかりません。
また、不動産登記法には、既に義務化されている登記がありますが、罰則が発動したことは過去に一例もありません。
これは、建物を新築したときには1か月以内に建物表題登記をしなければならないところ、日本全国には登記のされていない建物がありふれています。
相続登記を義務化し、手続を簡素化したところで、私が心配するのは次のようなことです。
- 所有者本人による登記申請が増え、法務局の登記事務に大きな負担、事務の遅延の原因となる。
- 司法書士資格をもたない、他の士業や民間の事業者による違法な登記書類の作成支援ビジネスが横行する。
- 単純な登記であれば所有者本人が手続をするようになり、司法書士に依頼をするのは困難案件が中心になる。
- 相続人になりすます者により、原野商法の二次被害や地面師が活躍する温床となる。
政治力がとても弱い司法書士には、この流れに対して遅れを取るのは目に見えています。
なぜ、相続登記をしないのか、されないのか、という根本的な部分にも考えを向けなければならないとも思います。
相続登記の手続をどこまで簡素化されるのかということも気になります。不動産登記簿とマイナンバーを紐付ければ、少なくとも名寄せの手間を削減できると考えます。
そもそも、日本の戸籍制度も見直しがされるようです。近いうちに、どこの役場でも、全国に点在する本人の戸籍をひとまとめに取得できるようになるそうです。
相続登記をおはやめに。お忘れではありませんか?