遺言書を作成すると聞くと,一部の資産家や経営者に限った話で,自分には縁遠いものであると考える方が多くいます。
しかし,財産の多い少ないにかかわらず,何かの財産を残して亡くなった場合,相続の手続をしなければなりません。遺言書がある場合とない場合を比べると,遺言書がある方が相続の手続が一段と簡便になり,遺された家族にとってはとてもありがたいことです。
遺言書の作成の方法は,法律で厳格にルールが決められており,これに反する遺言書は無効となります。また,他人に伝言をする,カメラやボイスレコーダーを利用する,ツイッターやLINEに書いておくなどの方法は,一切認められておりません。遺言書に関する細かいルールにも詳しい司法書士に,ぜひご相談ください。
遺言書を作成することを強くおすすめする方
次に示す事例は,特に相続トラブルが多い事例であり,遺言書を作成することを強くおすすめします。
相続人同士で話し合いがうまくいかないときは,裁判手続を利用することとなり、多くの時間と費用がかかるだけでなく,預金や不動産が凍結されてしまい,生活にも支障が出ることが考えられます。
- 子どものいない夫婦
- 未婚で独身の方(おひとりさま)
- 内縁関係の夫婦
- 同性婚をされている方
- 子ども同士の仲が悪いとき
- 再婚しており,前の配偶者との間に子どもがいる方
- 相続人の中に高齢者や障害者がいる方
- 相続人の中に外国居住者や行方不明者がいる方
- 自営業や農業をしている方
- 会社を経営している方
遺言書がないために発生する相続トラブルの事例
遺言書がなかったために,さまざまなトラブルが発生し,相続手続が前に進まないどころか,1円も相続できない場合があります。
子どものいない夫婦の場合
子どものいない夫婦で,夫が先に亡くなったときは,法定相続人は,妻と夫の父母です。夫の父母が既に亡くなっているときは,妻と夫の兄弟姉妹が法定相続人となります。
夫の親戚と普段から交流がないときに,遺産分割の話を進めにくいことが考えられます。生活費を夫の銀行口座で管理していた場合であって,協力的でない兄弟姉妹がいる場合,遺産分割の手続が滞って,預金の引き出し等ができなくなることがあり,生活に支障が出ることが予想されます。
内縁関係や同性婚をされている場合
内縁関係や同性婚のパートナーは,現在の民法では法律上の夫婦ではありません。
離婚の場合には,夫婦関係に準じて財産分与などが認められることがありますが,相続については認められていませんので,遺言書がなければ,1円も相続できません。
再婚しており,前の配偶者との間に子どもがいる方
先妻との間に子がいる夫が亡くなったときは,法定相続人は,現在の妻子と先妻との間の子です。夫が円満に離婚しており,先妻側との関係が良好であれば問題はありません。
しかしながら,先妻側との関係が悪いときは,夫の死亡に伴い,先妻側の一族が遺産の分け方に口を挟んできたり,過分な相続分を主張してきたりして,法的紛争に発展することが考えられます。その場合には,裁判手続により解決することになり,これが長引きますと,預金の引き出し等ができなくなることがあり,生活に支障が出ることが予想されます。
相続人の中に高齢者や障害者,行方不明者がいる方
相続の手続は,相続人全員が集まって取り分や分け方を話し合います。相続人の中に,認知症や心身の障害等で,判断能力がなく意思表示ができない方が含まれる場合,遺産分割の話し合いができません。また,相続人の中に行方不明で音信不通の方がいる場合も同様に,その方を省いてなされた遺産分割の話し合いは,無効となります。
遺産分割ができないために相続の手続が前に進まなくなることが考えられ,遺言書を作成しておくことが望ましい場合と考えられます。
未婚で独身の方
未婚で独身の方,いわゆる「おひとりさま」で亡くなったときは,法定相続人は,父母であり,父母が亡くなっているときは,兄弟姉妹となります。さらに兄弟姉妹も亡くなっているときは,甥・姪が法定相続人となります。甥・姪の世代になると,相続人の数が多くなり,相続人全員を特定することに時間と費用がかかります。また,相続財産を正確に把握することも困難であります。
いとこ同士が集まって伯父・伯母の相続の話をするということは,相続人にとっても大きな負担となるため,遺言書を作成しておくことが望ましい場合と考えられます。
自営業者や農家,会社経営者の方
生産設備,農機具等の事業用の資産や,会社の株式は,法定相続分に応じてバラバラに引き継がれてしまうと,事業の継続に支障が出ることが考えられます。
特に,会社の株式が複数の相続人に分散してしまうことは,会社にとって円滑な意思決定が困難になるほか,経営基盤が不安定となるため,取引先や融資を受けている金融機関に対してもマイナスの印象を与えることとなります。次期の経営者に確実に後を継がせるために,遺言書を作成しておくことが望ましい場合と考えられます。
遺言書の種類と特徴
公正証書遺言
公正証書遺言は,遺言者が公証人の面前で,遺言の内容を伝えて,それに基づいて,公証人が正確に文章にまとめ,公正証書遺言として作成するものです。遺言書の書き方は,法律で厳格に決められており,不備があると無効になることがありますが,専門家である司法書士や公証人が間に入ることにより,安全確実な方法で作ることができます。
司法書士に相談していただければ,遺言の内容についてご希望をお聞きして,下書きを作成し,公証人との間に入って遺言書の原案の作成をするほか,公証役場への同行などのお手伝いをいたします。
- 方式の不備で無効にならない
- 亡くなった後,すぐに手続ができる
- 紛失しても原本が公証役場に残る
- 費用がかかる
- 公証役場に行かなければならない
自筆証書遺言
自筆証書遺言は,遺言者が紙に遺言の内容の全文を手書きして,かつ,日付と氏名を書いて,押印することにより作成するものです。自筆証書遺言を使うときは,その遺言書を発見した者が,家庭裁判所にこれを持参し,裁判所に相続人が集まって内容を確かめる検認手続をしなければなりません。
- 費用がかからない
- 誰にも知られずに自宅で作成できる
- いつでも書くことができる
- 方式の不備により無効になることがある
- 自筆できないときには作成できない
- 検認手続が必要ですぐに使えない
- 破棄・隠匿・改ざんされる危険がある
- 火災・盗難等により紛失してしまうことがある
秘密証書遺言
秘密証書遺言は,遺言者が紙に遺言の内容を書き(自筆証書遺言と異なり,パソコンを使ったり代筆してもかまいません),署名押印をしてから,封筒に入れて,遺言書に押印した印章と同じ印章で封をします。
それから,公証人及び証人二名の前にその封筒を提出し,自分の遺言書である旨及び氏名と住所を述べて,公証人が,その封筒に日付と本人確認した旨を記載した後,遺言者及び証人二名と共にその封筒に署名押印して作成するものです。手間の割には,この方法を取るメリットはほとんどないものと考えます。
遺言書作成のために必要な書類等
- 遺言者の本人確認証明書(印鑑証明書,顔写真付きの公的身分証明書)
- 相続人との関係を証する戸籍謄本
- 相続人ではない者に遺贈する場合には,住民票
- 不動産を相続させる場合は,登記簿謄本と固定資産税評価証明書
- 預貯金を相続させる場合は,預貯金の通帳
遺言書作成のための必要な費用
公正証書遺言作成のための公証人手数料は,相続財産の価額により決定されます。自筆証書遺言の保管制度
令和2年7月10日から,自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度がはじまります。
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