雑感

司法書士の商品開発と非弁行為

司法書士の仕事は、残念ながらあまり世の中に広く知れ渡っておりません。日本には、司法書士が全員で2万人ほど生息しています。隣接士業では、弁護士が3万8千人、税理士が7万7千人、行政書士が4万6千人、社労士が4万人おられまして、比較しますと士業の中では弱小勢力となっております。

司法書士の仕事

主な仕事は、土地や建物の名義変更の手続をしたり、銀行の担保を設定したりと、国民の皆様の契約を、登記申請という手続を通じてきちんと登記簿に記録をさせて、目には見えない権利を保全する仕事をしており、黒子となって後始末をしております。

また、戸籍を読み解いて、相続人を調査するほか、訴状や調停の申立書などの裁判所に提出する書類を作成することが得意なマニアックな集団です。特に、相続の分野では強みを発揮しております。

平成14年に司法書士法が改正されたことにより、訴額140万円以下の簡易裁判所で取り扱う事件についての訴訟代理をすることができるようになりました。限定的ではありますが、この範囲内であれば、弁護士と同じことができるようになったのです。

ちょうどその時期に、消費者金融のグレーゾーン金利が解消されたことと相まって、サラ金で借金をしている方の代理人となって、払いすぎた利息を取り戻すための裁判が多発しました。いわゆる過払いバブルと呼ばれた時代です。

ビッグウェーブに乗った先生の中には、過払い御殿が建ったとか。その頃に開業した司法書士は、1年目から数千万円の売上を叩き出すことも難しくなかったようです。過払い金ブームと民間企業の不況のあおりで、司法書士試験受験者が過去最高を更新していた時期でもあります。

最近では、相続や成年後見、民事信託などを工夫して、シニア向けにサービスを提案されている先生が増えてきております。近頃の高齢者は、老い支度、終活にも積極的であり、自分の亡くなるまでにしっかり準備されようと意欲のある方が多くおられます。

商品開発と規制の壁

司法書士の仕事は、時代が移り変わるとともに変化していきます。

事務所を開けて待っていれば、電話がかかってきて、依頼された書類を作って法務局に提出する。かつてがこのような時代もあったようですが、うらやましい話であります。

今では、司法書士も、時代に変化に合わせた商品開発をしなければなりません。司法書士がする商品開発は、最新の法令や国民のニーズを理解して、これを実務に落とし込むことです。企業のように、研究開発部門などありませんから、ひとりで仕事をしながら、合間を見つけて考えることとなります。有志で集まってプロジェクトを立ち上げることもおもしろそうです。

しかし、困ったことに、新しい商材を開発しても、世の中に出せないことがあります。

われわれの業界は、良くも悪くも資格をもった者しか参入できないため、守られている一方で、業法による規制も多いためです。もっとも気をつけなければならないのは、弁護士法です。法律事務を独占的に取り扱うことができるのは、弁護士だけです。この例外として、司法書士法に定める範囲内で、法律事務を取り扱うことができるに過ぎないのです。

司法書士の中には、積極的に新しい分野へチャレンジされている方がいます。しかしながら、非弁や懲戒をおそれるあまり、消極的・保守的に行動される方のほうが圧倒的に多いように思います。商品開発をしなくても旧来型ビジネスで十分に食えているのかもしれませんが。

法律専門職の立場としては、見過ごしてはならないニーズというのも存在します。誰もやらないのであれば、「じゃあ、俺が」と手を挙げる方が出るのはやむを得ないことなのかもしれません。一方で、タクシーが不足していることを理由に、白タクが正当化されるものではないことも、理解しなければならないと思います。

弁護士法に違反する怖さ

国民の利益という観点からは、あまり消極的になるのも望ましいことではないのかもしれませんが、私の考えとしては、弁護士法は絶対に違反してはならないものです。

名前は出さない、直接交渉はしないというような言い訳は通りません。お手つきをした結果、その行為が無効となり、責任の取れない事態に発展したときに、もっとも被害があるのは依頼者だからです。これは消費者被害です。

なお、非弁の問題点については,弁護士の深澤諭史先生がわかりやすく解説されておられます。

利用者にとって非弁業者や非弁提携弁護士に依頼すると何が問題なのか。

非弁でも事件が解決すればいい!?

非弁行為に関する誤解とデマ

よほどの根拠と覚悟がなければ、見切り発車は危険すぎると考えます。また、一部の司法書士が誤ったことをしたために、司法書士制度の信頼を損ねるようなことがあれば、他の2万人の司法書士に迷惑がかかってしまうことも頭において置かなければならないと思います。われわれは、ただの自営業者ではなく、司法書士という国家資格をもち、独占業務を担っているためです。

ファーストペンギンになることは、とても勇気のいることですね。

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司法書士 野田啓紀
司法書士 野田啓紀
遺言書、家族信託、成年後見制度などを活用した相続対策、認知症対策を専門とする司法書士です。相続登記や遺産承継業務のような死亡後の相続の事務手続だけではなく、生前での相続や事業承継への対応に、適切な助言をいたします。